子どもたちがふるさとの海を自慢できるように。

人が苦手だった自分を救ってくれた室戸に恩返しを!

【地元の若手漁師として大活躍!】

「明日は6時ごろからみんなで港で作業しています。」
室戸で深海生物漁師を営む松尾拓哉さんに取材をお願いした前日、拓哉さんから連絡がありました。
ちょうど取材日は台風前。朝、佐喜浜港に行ってみると、いつもと違いたくさんの船が港を埋めるように整然と並んでいます。

拓哉さんが言います。
「佐喜浜の漁師さんみんなで、船が動かないように繋ぎ合うんですよ。」
シケ繋ぎという作業で、台風で船が被害に遭わないようにお互い繋ぎ合って港内に固定するそうです。台風銀座と呼ばれてきた室戸では台風前の日常とも言える風景かもしれません。

「私の船も拓哉にお願いして繋いでもろうとる、もう自分ではようやらんき。」
ちょうど港にいた、拓哉さんが師匠とよぶ漁師さんがおっしゃいました。


作業の間もにこやかに他の漁師の皆さんとお話しする拓哉さん。佐喜浜で、拓哉さんが築いてきた漁師さんとの信頼関係を垣間見ることができました。

【よどみなく出てくる生き物の解説に引き込まれる】

「お待たせしました。そろそろ行きましょうか。」
そう促され、次に向かったのはアクアファーム。室戸海洋深層水の取水施設でもあり、取水の際組み上げられた深海生物の展示とともに、室戸海洋深層水の取水の仕組みや効能についての展示もされている施設です。
実はこのアクアファームのバッグヤードに拓哉さんの獲ってくる深海生物の蓄養設備があるのです。

「あれは茨城の水族館から、こっちのはどこだったかな」さまざまな形の水槽は、各地の水族館から拓哉さんが譲り受けたもの。こんなところにも拓哉さんの人脈の広さをうかがい知ることができます。

「ちょうど台風が連続で来てしまったから漁に出れなくて、今生き物が少ないんですよね。」
と言いながら、水槽から次々と深海生物をすくい上げ見せてくれます。
「これはヌタウナギ、こっちはオオコシオリエビってヤドカリの仲間なんですよ。これがお馴染みオオグソクムシ。」

「深海と一口に言っても、底の地形は砂地だったり岩場だったりさまざまで、深海生物も地形や底質によって取れる種類が違うんです。このオオコシオリエビは、なだらかな崖の窪みに腰を折って体を穴の中にしまっているんです。だから名前もオオコシオリエビ。」

元々は水族館で働いていた拓哉さん。ただ名前を教えてくれるだけでなく、生態や名前の由来の説明がよどみなく出てきて、あっという間に話術に引き込まれていきます。

漁のあと、水族館やお客様の元に行くまでのしばらくの間、この蓄養施設で深海生物たちは暮らすことになります。室戸海洋深層水を引き込み暗くし、深海に近い状態で飼育、蓄養しているそうです。
また、深海は水温が低いため船にも冷水機を設置し、深海生物を生きたまま元気に輸送できるよう気を使っているそうです。とても大事にオオグソクムシたちは運ばれてくるんですね。

【自分でも半信半疑!?オオグソクムシの販売へ】

「室戸の深海には面白い生物がたくさん暮らしています。漁をすることで分かったきた面白さを子ども達に伝えたいと思いました。特にオオグソクムシはたくさん獲れて子ども達にも「キモかわいい」と人気。インパクトもあって食べることもできる。室戸の海の面白さをもっと広く知ってもらうきっかけになるんじゃないかと販売を始めました。」

キモかわいいオオグソクムシを売る。すごい思いつきです。

「でも正直、水族館ならともかくオオグソクムシも最初は本当に売れるのかな?って思ってたんですけど、月に数件は室戸びと進むのECサイトから注文来るんですよ。自分でもびっくりです。みんな買ってどうしてるんだろう?食べるのかなあ?飼うのかなあ?」

話をしている間も、自分の話をされてるとも知らずオオグソクムシが得意の背泳ぎをしながら何回も水面に浮き上がってきます。

「今、水中ドローンでの調査にも協力してるんです。深海ってまだまだ未知の部分が多くて、新種や和名のない日本で未発見の未記載種が見つかることがあるんですよ。」

新種!なんて夢のある話なんでしょう。

「室戸の海洋深層水は、ミネラルがたっぷり含まれています。その水が湧昇流となって湧き上がるところに深海生物がいます。ミネラルを求めプランクトンが集まり、多様な生き物が生活しやすく生き物のレストランのようになっているんです。その湧昇流が表層に湧き上がるところに大敷(定置網)も仕掛けられていますよね。」

室戸の海洋深層水は生き物のレストランだというわかりやすい例えに、見たことがない深海で暮らす生物たちの暮らしを想像します。

室戸と海の生き物に救われた幼少時代

室戸ユネスコ世界ジオパークが持つ、海のめぐみの豊かさの理由まで丁寧に説明までしてくださった拓哉さん。
話の楽しさに引き込まれてしまいますが、幼少時代のことを尋ねると意外な答えが返ってきました。

「僕、実は人と話したり学校が苦手だったんです。」

特に中学時代は大阪での生活が辛くてしょうがなかった拓哉さん。不登校気味になってからさらに熱心に室戸に通うようになります。

「僕は周りの人に恵まれていると思います。室戸に通い周りの人に恵まれて、僕はいい方向に息を吹き返すことができました。子どもは周りの大人の力や環境で変わることを体感したんです。今度は自分が子どもたちにいい影響を与えられるようになりたいんです。」

「自分も夢中になった海の生き物の面白さを子どもたちに伝える授業」
拓哉さんは、自身のお子さんも通う地元の佐喜浜小学校で「海の学習」という授業を受け持ち、今年でなんと6年目となるそうです。

「海の学習」はまず室戸の海の地形や定置網漁について座学で学び、その後拓哉さんの船に乗って、海から佐喜浜大敷組合の漁場を見学します。その後市場で魚が水揚げされる様子を見学した後は、実際に朝どれ鮮魚を使った調理体験まで学習するものです。

小さな町の小学校ならではの、きめ細かく贅沢な学びの取り組み。さらに拓哉さんは「海の学習」以外でも子どもたちに機会を提供しようとしています。

近々大阪の海遊館が行う「オンラインアカデミー」で、佐喜浜小学校の子どもたちと海遊館を繋ぐとのこと。そちらの見学も別日に行ってきました。

室戸の海から海遊館に行ったジンベイザメの話を中心に、海遊館の飼育委員さんと拓哉さんが軽妙にやり取りしながらテンポよく授業は進みます。子どもたちもリアルとオンラインの入り混じる授業を楽しんでいる様子。

「自分の子どもにもなんですけど、室戸の子どもたちに自分達の町や海を誇りに持ってもらいたいという想いがあります。田舎に住んでいると良くも悪くも外の人との交流が少なくなります。コロナ禍でここ数年それがさらに加速しました。田舎のいいところを残しながら、外の世界とも交流し、色んな人や仕事があることを知ってもらいたいんです。僕にとって深海生物は世界と子どもたちをつなぐツールなんです。」

メディア取材もひっきりなしにくる拓哉さん
たくさん取材を受けることで「お前出たがりか!」と言われることもありました。でもメディア関係者と子どもたちが接する機会を作ることで、人と人との話し方、コミュニケーションを学ぶことができます。子どもたちには自分で自分を発信できるようになってもらいたいし、外の世界に出た時に、有名人が来たり、メディアが注目する室戸はすごいんだぞ!って自慢に思ってほしいんです。」

子どもたちが自慢に思う室戸に!未来を描く

近い将来、観光客も地元の子どもたちも楽しく学べるような施設を作りたいという拓哉さん。

「室戸はまだまだジオの恵みや眠っている資源がたくさんあります。そんな資源を生かして地域に雇用も生み出したいんです。外に出ていった子どもたちが室戸のすごさに気づいた時、帰ってこれる環境作りをしたいんです。」

力強く語る拓哉さん。色々言われてへこむ時ももちろんあるそう。

「自分がやりたいからやる!という覚悟ができてからは、不登校だった頃からは比べ物にならないくらいメンタルは強くなりました。落ち込んだ時は、なるべく意識を遠くに飛ばします。ドローンみたいに俯瞰で自分を見つめたら、大体1日で立ち直りますよ。」

逆境にくじけず色んなやりたいに挑戦する拓哉さん。そんな拓哉さんが深海漁で獲って来たオオグソクムシ。一度食べてみませんか?エビに似た風味で美味しいですよ!

オオグソクムシ(活魚)1個体
5,556円(税込6,000円)

陸地から約2~3キロほどで深海に到達する室戸独特の地形だからこそ「オオグソクムシ」を生きたままお届けすることができます。素揚げで一気に丸焼きすることで、すごく濃い味のカニやエビのような味わい。甘みも強く、海水の塩水などでつけて食べるだけでも充分に味わうことができます。キモかわいい外見とメカメカしい構造に加え、味も美味しい大人気の深海生物オオグソクムシをご賞味ください。簡単な調理法の書いたものを同封いたします。