【お世話になっている室戸に恩返しを!〜地域を超えて〜室戸ポンカンの救世主】

「室戸びとすすむ」のECサイトでも販売中の「室戸のポンカンジュース」みなさんはもうお飲みになりましたか?

観ているだけで楽しくなるようなかわいいラベルのこのポンカンジュースは、ストレート果汁で夏でも秋でも一年中室戸のポンカンが楽しめるもの。そんな贅沢ジュースの誕生はある一人の農家さんの行動がきっかけでした。

【畑を継ぐことで地域の誇りも繋いでいきたい】

柑橘の農園と聞くと、室戸に住んでいるとつい海成段丘の斜面を思い浮かべるのですが、安芸市は室戸市と違って平野が多く、案内された千光士農園の柚子畑も広い平野の中にあります。

「柚子が成る木を見れる!」と期待したのですが時すでに遅し、伺った11月中旬には柚子は全て収穫されており緑の葉の茂った木々が残るのみ。施肥のため堆肥の到着を待つ間、尚史さんにお話しを伺いました。

「室戸でもそうだと思いますが、安芸市でも耕作放棄地や継ぎ手のいない高齢の生産者の農地が増えてきています。そんな農地をできるだけ引き継ぎたいと思っているんです。作物は地域の誇りや文化の源。そんな作物を作り出す農地を次の世代にできる限り繋ぎ残すこと。その活動の延長に室戸のポンカンジュース誕生がありました。」

県外の大学院を出た後、静岡県でサラリーマンをしていた尚史さん。2012年に家族の体調不良をきっかけに高知にUターンします。

「小さな頃から家業を継ぐ気は全くなくて。親からも継ぐようにと言われたことはなかったんです。大学の専攻も家業と全く関係のない国際関係学。むしろUターンするまいとまで思っていました。小さな頃から父や祖父の仕事を見たり手伝ったりはしていて、農園の作業自体は嫌いじゃなかったんですけど。ただ家族の事情で地元に帰る決断をした時、「帰る=継ぐ」という気持ちにすんなりとなりました。人生っていざその時がきたら、そう成る(継ぐ)ようになっているんですね。」

【一人っ子の負けず嫌いが、完璧ではなく制限の中で最良最善を目指すワケ】

農家を継ぐという決断に至るまでを、何事もなかったかのように話す尚史さん。小さな頃はどんなお子さんだったか伺うと、

「一人っ子の甘えっ子で人と話すのはどちらかというと苦手でしたね。」

とおっしゃる尚史さん。
あちこちでメディアや新聞の取材記事をお見かけし、実際にお会いしても色んな話題を次々と話してくれる今の尚史さんからは想像がつきません。

「勉強が好きというよりは負けず嫌いで、テストで100点取れないとイヤだったんです。」

と駄々っ子で負けず嫌いな一面も教えてくれました。こちらも想像がつかないですね。

一本の柑橘を実がなるまで育てるには何年もかかり、農園の仕事は一年を通して休みはありません。収穫以外にも色んな作業がある中で、好きなものは何か伺うと少し考えた様子で

「剪定かな。」

ポツリと答えが返ってきました。

「一本の木の剪定に15分と時間をかけていたら、全部の農地が終わらないわけです。一本5分位の作業効率で、切る枝を決めて剪定して仕上げなければならない。枝が広がる方向、実がトゲ(柚子などの場合、枝に鋭いトゲがある)にあたって傷つかないように、日の当たり具合、収穫など作業がしやすいように、など多面的に考えながら、「完璧」ではなく時間内に妥協点というか「落とし所」を決めて枝を切っていく。こういう色々考えたり、プレッシャーをかけられる作業が好きなのかも。」

1本の木の形や枝の張り具合にはそんな色々な要素が込められていたのですね。果樹を見る目がすっかり変わってしまいました。

【室戸ポンカンジュース誕生に至るまで】

ポンカンジュースを作った経緯を教えてください。

「昨年、2021年の室戸のポンカン生産の内、加工向けのものがコロナ禍で行き先がなくなり、このままだと廃棄されてしまう可能性が出てきました。室戸の西山台地の農家さんにはポンカン畑の一部を借り受け、普段からお世話になっていたんです。みんなが手塩にかけて育てたポンカンが捨てられずに済むように、とにかくどうにかしたかった。」

尚史さんは生産者やJAと話し合い、廃棄する予定だった室戸のポンカンを一手に引き受けて買い取り、ジュース加工に回すことで救ったのです。中々できることではありません。まさに救世主というべき行動です。

【目指す先は!?人やモノの素敵な循環、地域と連携し若い世代に繋げていく】

そうこうしている内に大きなダンプカーが到着しました。果樹にまく堆肥の到着です。

そこにひょっこりスタッフが一人現れました。今日届いた堆肥を柚子の木に施肥する仕事を任されているそうです。

「えー!今日オレ一人なんですか?」

なんて口ではブーブー言いながらもコツコツと一輪車を行き来し真面目に施肥を続けます。彼は最近入ったばかりの新人くん。入ったばかりと聞きましたが、社長である尚史さんとも軽口をたたきながら楽しそうです。

新人くんとの会話で新人くんが「香り」に興味を持っていることを聞いた尚史さん。柚子が精油の原料として使われていること、千光士農園でも精油用の柚子の取引があることを伝えると「知らなかった!」と新人くんの目が好奇心で輝きました。

「今日彼と話したことで、僕も彼が何に興味があるか知ることができました。仕事でも彼の興味に繋がることができるかもしれない。たまたま今日は彼一人の作業だったからゆっくり話せたんです。一見無駄に見えるような会話ですが、対話することで相手のことをより良く知ることができる。話すことって本当に大事なんですよね。」

尚史さんが人との対話を大切にし、相手をより良く理解し、未来に繋げようとしている姿勢が伝わってきました。

さらに尚史さんは続けます。

「自分が雇用の場を作ることで、地域の若者の居場所になって行けばいいなと思ってます。そして若者の雇用だけでなくさらに僕が目指しているのが農福連携(※)です。地域の福祉と農業と絡めた雇用を作って行きたいんです。」

※「農福連携」とは
障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み(※農林水産省HPから抜粋)

地域の農業が担い手を確保しつつ、障がいや生き辛さを抱えた方々が、自己実現や経済的に自立することを支援するステキな循環の取り組みです。そんな理想的な環境がどんどん実現していくといいなとお話しを聞きながら感じました。

さらに興味深いお話が続きます。

「この堆肥、高知競馬場の競走馬の堆肥なんですよ。」

なんと珍しい!馬の堆肥、初めて見ました。近づくとホカホカ温かく、ほんのり芳しい香りがしました。

競走馬は家畜と異なり、あまり投薬などせず健康的な環境で育てられているとのこと。最近この馬糞堆肥が高知で作られていることをSNSで知り、取り扱い業者さんと連絡を取り使ってみることになったそうです。

「効果はまだ撒き始めたばかりで分からないけれど、高知の中で畑だけでなく肥料も色んなものが循環し合えば良いなと思います。」

目指すのは地域での人やモノの循環、そして次世代に繋ぎ残すこと。そんな尚史さんの強い想いが込められたポンカンジュース。ぜひ飲みたい!そしてたくさんの人に飲んでいただきたい!

そして室戸のポンカンジュースで使われる、ポンカン生産者の一人「こたけ農園」小松毅士(こまつたけし)さんにもお話を聞いてきました。

【千光士さんはポンカンを救った救世主、けして偉ぶらないすごい人!】

案内された農園はちょっと変わったところに果樹が生えていました。

「使わなくなった千両のハウスを果樹用に再利用してるんです。」

千両も西山台地の名産でお正月用の花卉として京都や大阪に出荷されています。

枝の誘引や夏の強い日差しを避けるために囲うハウスを果樹用に再利用。果樹も効率的に実をつけたり世話をするために枝の誘引が不可欠。千両用の施設がちょうどよく使えたそうです。このハウスでは不知火やなつみなど、少量生産の品種が育てられていました。

千両ハウスを抜けるとお待ちかね、ポンカン畑に到着!

ほんの少しですが、ちらほら色づき始めています。

「僕達にしてみれば、千光士さんは救世主。捨てるしかなくなってしまったポンカンをインライン方式という搾汁方法で委託加工し、ストレートジュースにして救ってくれたんです。」

「僕らからしたら感謝でしかなく、自分達ではとてもできなかったことです。ポンカンを買い取るのはもちろん、ジュースを作ること、できたジュースを売りさばくことも全部大変ことなのに千光士さんは「室戸の人にはお世話になっているから」と、ちっとも偉ぶらないんです。本当にすごい人です。」

そんな話を聞きながら、まだ色づいたばかりのポンカンをその場でちぎって試食させていただきました。

みずみずしさが一番にやってきて、その後に甘さと酸味が口の中に広がります。これから甘味がどんどん増し、収穫後は少し置くことで酸っぱさも抜けて美味しい室戸ポンカンになるとのこと。

「今年はたくさん採れそうでポンカンプールも出現するかも。」

ポンカンプール??

ポンカンプール予定地を見せていただきました。

「この倉庫に畳を敷いてそこに収穫したポンカンを寝かせます。倉庫中いっぱいになるんですよ。」

ポンカンプール、ぜひ見てみたいなあ。

毅士さんは親戚のポンカン畑を継ぐために、京都からIターンした農家さんです。写真をお願いするとたくさんお茶目なポーズで撮ってくれました。趣味が演劇とのことで芝居仲間を募集中だそうですよ!

取材後、あらためてポンカンジュースをいただきました。まさに室戸のポンカンがそのまんまのストレートジュース。美味しい!ポンカンシーズンが待ち遠しい!

飲みながら、青空のもと黄色く色づき始めたポンカンの木や、果樹について熱く語る尚史さん、毅士さんの笑顔が思い浮かびました。作り手とそれを無駄にしない仲間の思いが地域を超えてつながった「室戸のポンカンジュース」きっとご家庭にも美味しい笑顔があふれることでしょう。