【縁あって室戸へ、与えられた場所で
力の限りを尽くす『美阿丸』竹村美阿さん
海を越え室戸で根づいた愛の形】




室戸岬がくっきりと海に浮かぶ姿が見える行当岬。
「美阿丸」美阿さんの「マグロの胃袋チャンジャ風」を作る加工場はすぐ海のそばにあります。



「今日はマグロのワタ(胃袋)のゆず塩味を作ります。見学に来ますか?」

と連絡をいただき「美阿丸」の加工場を訪ねました。
外観のスモーキーなピンクは「美阿丸」の代表カラー。
美阿さんの好きな色なんだそう。



中に入らせてもらうと、すでに美阿さんが製造作業中でした。
昨年完成したばかりだという加工場には、ピカピカの大きな機械がたくさんあります。


【マグロ漁師の特権!
珍味、マグロのワタ商品化への長い道のり】



お鍋の中にはすでにカットされた山盛りのマグロのワタ!

マグロ漁で栄えた歴史があり、マグロ漁に従事する方も多い室戸に暮らしているとマグロのワタは道の駅キラメッセに並ぶこともある見慣れた食材ですが、おそらくみたことも聞いたこともない方がまだまだ多いのではないでしょうか?



マグロと言っても色んな種類がありますが、このワタは何てマグロなんですか?


「メバチまぐろです。メバチまぐろとクロまぐろのワタしか私は使わないんです。メバチまぐろとクロまぐろは身が分厚いの。他のマグロのワタだと薄くってダメなんです。」


なるほど、よく見るととても肉厚でプリッとした身です。すでに美味しそう。



作業を見学させていただきながら『マグロの胃袋チャンジャ風』誕生までの話を聞かせていただきました。

数年前、当時「土佐室戸・鮪軍団」の一員としてマグロの解体ショーなどでイベント参加を行っていた美阿さんはじめマグロ船の船主やその奥様方。その「土佐室戸・鮪軍団」に漁業組合や漁業指導所から漁師自らが加工や流通を行う6次産業化の話が持ち込まれました。

通常、魚は漁の後、市場で競りにかけられ魚価が決まります。逆を言えば、漁師には魚の値段を決める権利がありません。そんな現状に当時から問題意識もあり、みんなで何か一緒にしようとなったのですが、マグロ船主の奥様方は会社の経理を任されていることも多くとても忙しい。結局残ったのは美阿さんだけだったそうです。


「ただの主婦が、素人ながら色々考えて試作を作り始めたものの中から、家族や皆がこれいいね、美味しいねと言ったのが『マグロの胃袋のチャンジャ風』だったんですよ。」


懐かしそうに当時のことを話す美阿さん。


「商品化するものが決まって、高知県からアドバイザーもつけてもらって色々相談したんですが、自分で加工して全部自分で作るということが当時は難しくて、市外の加工事業者さんに委託製造という形で始めました。」
「商品化して販売がスタートしたものの、自分の作る行程を再現して製造したはずがどうしても微妙に味や仕上がりが異なり納得がいきませんでした。」


そこで自分の加工場を作ることにした美阿さんですが、さまざまな社会情勢の影響で工期は遅れに遅れ、構想から数年経ってやっと完成に漕ぎつけました。


「先ほども言いましたが、使用するワタはメバチまぐろとクロまぐろのワタでないとダメなんです。色んなマグロのワタで作ったんですが、メバチまぐろとクロまぐろのワタじゃないと肉厚で美味しくない!」


美阿さんのこだわりです。

【美阿さんのこだわり!臭みがないマグロのワタの秘密は
手間ひまがかかる手作業にあった】



「でも下処理にとても時間がかかるんです。ワタは漁の時にマグロを捌いて取り出されてメバチまぐろとクロまぐろのものだけまとめて寄港した港から送られてきます。ワタには溝があってゴミとか色々な汚れが溜まってますから、ブラシも使いながら水でよく洗います。その時に薄皮も手で剥がすんです。その作業が一番時間がかかります。」



想像しただけで手間がかかることが分かります。


「よく洗ったあとは真空パックしてマイナス60度で冷凍保管します。そして製造日の前の日に解凍を始めるんですが、マイナス60度で凍らせているので溶かすのに一晩かかっちゃうんです。」
「溶かしたワタを1時間くらいかけて湯がくんですが、冷ました後また溝に溜まった汚れやアクを手でよく洗います。」



とにかく洗うんですね。作業しながらお話は続きます。


「はい、しかもワタの形って逆三角形で歪なので、機械で均一にカットするのは難しい。手作業で一個一個カットするしかしょうがない。そしてワタのカットした部分から汁が出てくるのでカットしたらまた洗うんですよ。」


とにかく洗って洗ってが続くんですね。出来上がるまでの手間ひまがすごい!



そこでマグロのワタのゆず塩味が出来上がり、
少しだけ試食させていただきました。



柚子の酢やたっぷりのニンニクと生姜、塩であっさりさっぱりとした味付けなのに、魚臭さやクセが全くなくて肉厚のコリコリした歯ごたえが素晴らしい食感。本当に美味しい!

作業は、息子さんと東京で出会い嫁いできたという奥さんも手伝います。息子さんは普段は、マグロ船に乗ったり、奥さんと一緒にインターネットでの販売も担当しているそうです。奥さんはこちらにきてから船舶免許も取り、お義父さんのエビカニ漁のお手伝いもしているそうです。




「ワタの処理も大変ですが、食品表示にも苦労しました。今でも苦手です。原価計算とかパッケージのデザインとか考えたり作ったりしなければならないことが山ほどあって、この柚子塩味もそうですが、商品は出来上がってるもののパッケージができてなくて小売で店舗に出さず、業務用でしか出せてないものもあるんです。」


まだまだ室戸びとの商品が増えていく余地はありそうですね!

【海を越えて育まれた愛!
たどり着いた室戸で自分にできる努力を尽くす】



作業が終わったので、事務所で改めてお話を聞かせていただきました。

美阿さん、実は韓国のご出身。
どうして室戸で暮らすことになったのか訪ねました。


「夫は船のエンジニアで、仕事で上司と韓国に来ていたんです。その上司の方が韓国に来たら必ず訪ねる陶磁器のお店を私の姉が経営していました。出会ったその日、本当にたまたま珍しく私が店番に入っていたんです。それが夫との出会いだったんですが、実は私覚えてないんですよ。」

 

おかしそうに美阿さんが話します。

「一回お店で少し会っただけなのに、その後手紙が届いて、万年筆が添えられていたんです。それから文通を始めました。手紙だけで3年も!一度も会わずにです。今だったら考えられませんよね?その間に日本語を習いに通ったりはしていましたが、当時はお友達って気持ちでした。」


文通だなんて、とてもロマンチック。


「2回目に会った時にはもうご両親にご挨拶、そこから夫のご両親にも会うようにと姉の計らいでビザを取り一緒に日本に来ました。その後、夫は実家のマグロ船業を継ぐことになり、船の進水式に呼ばれて行ったのが3回目。そこで親戚にもご挨拶してトントンと婚約することになりました。4回目に会ったときはもう結婚式。式の後は1ヶ月一緒に暮らせたんですけど、それから夫はマグロ船に乗って行ってしまい1年帰ってきませんでした。」


聞いているだけでそんなことあるの??
とびっくりの連続な結婚までの道のり。


「私も東京から嫁いできましたが、国を超えて暮らす大変さは比じゃありませんよね。美阿さんは本当に優しくて、色々私にも気遣ってくれるんです。そんな美阿さんがいてくれるから、私室戸にきてから全然寂しいと思ったことがないんですよ。」


隣で聞いていた義娘さんが話してくれました。お二人がとても楽しそうで、聞いているこちらにまで温かさが伝わってきます。



日本にきて、室戸にきてびっくりしたことを聞いてみました。


「韓国は床暖房が当たり前なので、それがなくてびっくりしました。新婚当初暮らした市営住宅はシャワーがなくてお風呂が沸かすタイプのもので、、、それにもびっくりしましたね。韓国では都会に住んでいたので、スーパーが24時間営業ではなく早くに閉まることにも戸惑いました。」


食事について訪ねると


「韓国の実家にいるときは6人兄弟の末っ子で甘えて暮らしていたので、恥ずかしいですけど料理なんて全く作らなかったんです。結婚してから日本の料理を勉強して作るようになりました。たまに故郷の食べ物、白菜キムチが食べたくなりますね。キムチに使う白菜が韓国と日本では種類が違うんです。あの味が日本では作れない。でもニラキムチとキュウリのキムチは娘が好きなのでよく作ります。韓国にいる時にもっと母の味を習っておけば良かったと今頃思いますね。韓国の郷土料理『煮込み』は韓国でも田舎に行かないと食べられない味で、ソンジと呼ばれる牛の頭の血の塊で作るんですが、牛を絞めたその日の新鮮なソンジでないと作れないんです。それは食べたいと思いますね。」


その話を聞いた義娘さんが話を続けます。


「私の実家では洋食が多かったので、私の中で和食は美阿さんが作る味になってしまいました。本当に美味しくて食べすぎちゃう。ありがたいことに毎日何品かお裾分けしてくれるんですが、それが毎日楽しみで、私も美阿さんの味が作れるようになりたいなと思っています。」


羨ましいくらいの嫁姑の仲の良さ。これも美阿さんが日本に来て苦労した分の優しさの現れだなあとしみじみ感じました。

【息子夫婦に託す未来、
これからも色んな挑戦を続けたい!】



これからの展望をお聞きしました。


「加工場に生簀や冷凍庫も完備しているので、伊勢海老やアサヒガニの加工や出荷もどんどんできるようにしたいですね。マグロ以外の魚も扱えるようになったらと考えています。外食に行くと何が入ってるか?これとあれが入ってる、家でも作ってみようってつい考えてしまいます。息子夫婦が継いでくれるので、事業が継続していけるように色んな加工品が作れるようになったらいいなと思っています。」



さっそく「マグロの胃袋のチャンジャ風」をいただきました。そのままでも美味しいですが、クリームチーズと一緒に食べるのがお気に入りです。みなさんもぜひ試してみてくださいね!お酒がつい進みすぎちゃいますよ。


この生産者の商品

室戸・美阿丸まぐろ胃袋のチャンジャ風
5,741円(税込6,200円)

80kgのまぐろから、わずか300gしかとれない希少なまぐろの胃袋(ワタ)。100%国内産天然まぐろの胃袋のみを使用したチャンジャです。柔らかい食感とマイルドな辛さに仕上げました。 お酒の肴や、ご飯のお供にピッタリです。アレンジレシピが付いているので、お料理にも活用ください。